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2007-05-152022-02-11

ロク・チトラカール氏

ネパールの街には、主にお土産品としての仏教画(Thanka/タンカと呼ばれる)を販売している店がたくさんあります。僕たちもポカラで一つの見せに入り、タンカに描かれるブッダや神話に登場する世界の緻密な描写にため息をつきました。

ネパールで見つけることの出来るタンカには、チベット仏教におけるアイコンとして欠かすことの出来ないタンカと、それをネパールの先住民族であるネワール人の手で伝統芸術として昇華されたタンカと大きく二つに分けることが出来ます。ネワール人の伝統を受け継ぎ、現在も多くの仏教寺院にその作品を奉納する、ロク・チトラカール氏に会いにアトリエまで足を運びました。

アポイントも取り付けずに訪れた僕たちを出迎えた、ロクさんはとても優しいまなざしの持ち主。現在5人の弟子をかかえ、過去には日本人も含めた数十人の弟子をアトリエから送り出しています。現在の弟子は全てネワール人で、今後は自分の創作に集中するためこれ以上の弟子を受け入れるつもりはないと言う。
物音も立てずに黙々とタンカに筆を入れている弟子たちの様子を、後ろからじっと見守るロクさん。岩絵の具を擂る音だけがリズミカルに響いている。アトリエの壁面と併設されたこぢんまりとしたギャラリーに30点ほどの作品が飾られています。作品はロクさん自身の手によるものと弟子が描いたものと両方。色紙程度の大きさのものから、ポスター大の大きな作品まで様々です。

まずはギャラリーを見せていただきましたが、その緻密さに驚かされました。細い面相筆のさらに先の方だけを何度も何度も走らせて作り上げた細かな作業。描いている間は、息をしている時間より止めている時間の方が長いのだろうと想像します。細かに描かれた画面には、マンダラや仏教神話の物語が展開しています。よほどの鍛練を経なければ、描ききることが出来ないであろうと想像される、緊張と調和の世界。

街中で見かけるタンカとは少し異ることに気がつきます。線が一定の幅を保って勢いよく伸び縮みしている。スタンプで押したように繰り返されるモチーフ。登場人物の纏う衣装にはさらに細かく模様が、これも機械的な繰り返しによって、描かれている。ネワールの伝統的な建築物に見られる、独特のモチーフや模様が画面を支配し、チベットのタンカに見られる神話の具象的な描写だけにとどまらないのがロクさんの受け継いだ流派なのです。

さらにしばらく作品を見続けると、その流派に沿った作品の中にもオリジナリティがあるのが分かってきます。画面の隅々に描かれた物語や仏教に仕える人々の姿、それを取り巻く自然や動物たちには、歓喜と楽天的な気配が漲っています。人々に恐れられる神々を描いたタンカにもどこかユーモアのある人間的な表情や仕草が見つけられます。極彩色で描かれた緻密なタンカには、中央に描かれた神だけでなく、その周りを埋め尽くすように小さな神々や人間の生活、川の流れやジャングルの木々、空を飛ぶ雲が描かれ、それらを取り巻くようにキジやカラス、サル、犬、ネズミなどの動物たちがそこかしこに生きる喜びや信仰を表現しています。

ロクさんに話を聞いてみました。

絵の具からキャンバスまですべて自分たちで作ります。あらかじめ用意されている画材は売っていないのです

タンカに何を描くのかは私自身が決めます。とはいっても仏教画に描けるモチーフは数が限られていて、仏教神話の登場人物やその物語の中から、作品の意図にあったものを選びます

構図や登場人物のポーズは仏教画のルールに基づいて描くため、私はどちらかというと創作をしていると言うよりは表現をしているといったほうが正しいかも知れません。描くもの全て、それは中央にある神はもちろん、周りを飛び回る動物たちおいても同じですが、何かしらの意味を持っています。全てが仏教神話の中で登場する物語を語っています。多くは瞑想とともに静かに始まり、やがて悟りを経てまたもとの場所に戻ってくる様を表現します

オリジナリティを出すことは非常に難しいのです。すべてが流派によって決まっていますから、その中で自分なりの表現を織り交ぜて画面に落とし込んでゆきます。自分の経験や仏教に対する理解、それらがタンカに描き出されます

作品を作るのには大変は時間と体力が必要です。(100号ぐらいの大きな作品を指さして)すでに5年ほどこの作品に取り組んでいます。あまりに時間が掛かるので本当はもう描きたくないのです(笑)でもどんな作品ができ上がるのか、自分自身が楽しみなので描き続けています。弟子には任せられませんから。このような大きな作品は一生の間にわずかしか残すことが出来ません

常に笑顔で、日本人の弟子から教わったと言うカタコトの日本語を交えながら英語で説明してくれました。今年の11月には東京練馬区の観蔵院で何度目かの個展を開くことになっています。観蔵院にはロクさんにとってもとても大切な大判のマンダラを含む数点の作品が納められています。

最後にロクさんの使っている岩絵の具の岩石と絵筆を見せていただきました。ネパールで採取できるそれらの岩石と、驚くほど少ない絵筆を使って毎日少しずつ作品が完成に近づいて行きます。

1時間くらいアトリエをお邪魔している間、常に優しいまなざしで作品を説明してくれ、話を聞かせてくれました。ロクさんのオリジナリティはそのやさしさが画面に写されたものだと思います。

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