ピラミッドやイスラムの史跡を見た後に、カイロを離れて寝台列車で向ったのは、ナイル川南部にある町、アスワン。アスワンハイダムがあることで、現代史でも有名ですが、エジプト王朝時代にはヌビア文明の栄えた場所として、たくさんの遺跡が残っています。エジプト新王朝時代のファラオのひとり、ラメセス2世によって造られたアブシンベル大神殿と小神殿、王朝末期にイシス女神を讃えるために立てられたフィラエ神殿を訪れるツアーに参加してきました。
アブシンベルは、アスワンハイダム建設による水没を避けるため、ユネスコの援助を得て、ナイル川の岸辺近くの元あった場所から、陸地の方へと移設されています。裏手の駐車場から回り込んで正面に来ると、巨大なラメセス2世像が4体迎えてくれます。童顔な巨像はすべて同じポーズで座っており、足下に妻のネフェルトアリや子供たちの小さな像が立っています。自己顕示欲の強いファラオは、エジプトのあちこちに自身の像や名前を刻み込んでいますが、その極端さに並々ならぬナルシスを感じ、興味をかき立てられます。
アブシンベル以降に訪れた遺跡で必ずと言っていいほど現れるラメセス2世像に、僕たちは勝手にラメちゃんと愛称で呼んでいました。
大神殿の内部は人いきれがするほど満員で、ただでさえマナーに問題のあるエジプトに、同じくマナーに問題のある中国人やロシア人が大挙して押し掛けているので、写真撮影や遺跡に登るのが禁止されていてもお構いなし。こんなところも、エジプトをあまり好きになれない理由のひとつです。
遺跡の内部は4千年以上も前のものとは思えないほど、保存状態が良く、ラメセス2世の功績を讃えるレリーフが隙間なく描かれています。
隣にある小神殿は、妻のネフェルトアリに捧げられたものですが、大神殿同様、ラメちゃんの巨大な立像4体が観光客を出迎えます。その巨像に挟まれるようにして、ネフェルトアリの巨像が2体。妻のための神殿でもまずは自らをアピールすることを忘れない、ラメセス2世の心意気に感服します。
続いてフィラエ神殿。こちらもアスワンハイダム建設によって水没の憂き目に遭うところを、移設することで難を逃れた遺跡。フィラエ島いっぱいに修復された建物が点在しています。ボートで湖を渡って、到着することのできる神殿は、巨大な建物を同じく巨大なレリーフが覆い尽くす、とても華麗な建築物です。
原始クリスチャンイズムのコプト教教会として使われていたからか、あるいは偶像を認めないイスラムの手によるものか、塔や柱に描かれた素晴らしいレリーフの神たちの顔がことごとく破砕されてしまっています。当時の人たちにとっては、歴史的価値は無かったようです。
あちこち回って70ポンド(約1,432円)と、お買い得な感じもしますが、このツアー、朝3時に出発して狭いミニバスに詰め込まれて、遺跡の中を歩き回るので、とっても疲れました。ホテルに戻ってバタンキューです。