タラゴナを出ると、高速道路を乗り継いでバレンシアまで。この街が有名なのは、毎年春に行われる火祭りと、パエリアです。オレンジはたくさん作られていますが、よく聴くバレンシアオレンジとは関係ありません。高速道路を走る窓からは、ぎらぎらした太陽の下、海沿いの風景がつづきます。高速道路を降りる頃には、やはり海沿いに建設ラッシュとも思える高層マンションやホテルの連なりが見えてきます。
大リゾートの続く海岸コスタブランカに面した、バレンシア州の州都。
この街では、スペインの景気の良さを目の当たりに出来ます。とにかくあちこちで工事が行われていて、高速道路や分岐点も最近新しくなった事がすぐに分かるほど、とても整備が行き届いている。カーナビは最新の情報に追い付いていないので、降り口を探して何度も同じ道路を行き来する事もしばしば。
市内に入っても、古い歴史的建造物の修復から、地下駐車場の建設まで、さまざまな工事で地面を掘り返しています。以前市内を流れていた川の跡が公園になっていて、その中に敷地を持つ芸術科学都市の斬新で真っ白な建物は、ローマまで遡る歴史ある街並みと対照を成しています。
歴史的建造物の集る市内に車を停めて、名物のパエリアを手近なバルで食べてから(あまり美味しくない)、ラロンハという15世紀の交易所跡(世界遺産)と火祭り博物館を見学しました。
ラロンハでは、入り口を入ってすぐに柱のたくさん並んだ大広間に迎えられます。入場無料のため、またセキュリティチェックなどもないので、門をくぐると唐突に柱の集合が迫ってくる感じがあります。ら旋状に捻じられたデザインの柱は、植物の蔦が高く生長したかのよう。石造りの大きな建物を支えるに充分な構造なのでしょうが、とても華奢に見えます。
オレンジ木の生る庭や海の領事の間と呼ばれる広間は、いずれもとても丁寧に修復され手入れが行き届いていて、歩いているだけで気分が良くなりそう。大勢の観光客を引き連れたけたたましいガイドの声や、高校生の団体のおしゃべりも、この空間ではあまり気に触りません。
海の領事の間の一角でDVDの上映があり、時代を追って建物の構造が変化してゆく様や、修復工事の詳細を紹介していました。これまで絵画や彫像などの修復を映像で見た事はありましたが、建物や家具の修復工事がどのようにして行われるかを知る機会はありませんでした。
ひとつひとつの部品を分解しては、キレイにしてまた組み立て直す作業、痛んだ木材を補修してさらに薬品を使って保護する作業など、気が遠くなりそうなほど手の込んだ、時間のかかる作業を繰り返さなければなりません。細かい作業を、建物の外も中も全部やったのだと思うと、修復に携わった職人たちに拍手喝采したくなります。
バレンシアの火祭りは、毎年3月19日に600体以上ものハリボテ人形を燃やして春の到来を祝うと言う、スペイン三大祭りのひとつ。この祭りをきっかけに、スペイン各地を巡業する闘牛のシーズンもスタートします。
火祭り博物館では、毎年の祭りで市内を練り歩くハリボテの中から、最も投票の多かったものを(1体だけ燃やさず)保存しています。1930年代の人形から順番に去年の人形まで見て回る事が出来、リアリティを追いかけた時代やコミカルな人形に票が集った時代など、いずれもスペイン独特の毒のある人形が並んでいるのが面白い。
人形と一緒に、ポスターデザインのコンテストも行われるようで、僕はそちらに興味を引かれて、すべての年代を追って歩きました。50年代から60年代にかけて、驚くほど斬新で美しい作品が集っていて、目の保養になります。
80年代までは、手書きの筆跡も美しい作品が多いのですが、近年はコンピュータを使って処理されたようなものばかり。現在も闘牛のポスターにおいては、アーティストの作品を起用したり、手作りの芸術的なものが多いのに、伝統的なものがコンピュータや機械に取って代わられて行くのは淋しいものです。