グランドキャニオンを始め、アメリカの国立公園には渓谷が多い。コロラドプレートを形作る多くの重なった地層は、地域によって異る地形や色彩を与え、広範囲に様々な風景を作り上げています。
アンテロープキャニオンで見ることの出来る、細かなプリーツを重ねたような芸術的な陰影は、その美しさからは想像し難いほど凄まじい力で岩や砂、潅木などが押し流され、岩壁を削ることによって出来上がった作品です。
渓谷なので、地表からはその姿を見ることは出来ません。いつものサンダルではなく、スニーカーに履き替えて砂ぼこりが風に舞う地面に裂けた隙間に入り込みます。ごつごつとした岩にカメラやバッグを当てないように気をつけながら、人ひとりがやっと通れるような狭い隙間を滑り抜けると、波打った岩に、先程通ってきた隙間からこぼれる太陽光が陰影を刻む、不思議な空間が広がります。
天地方向に広がる波形の岩には、土砂が押し流されることで刻まれた、細い襞のような模様がついていて、それがさらに繊細なディテールを与えています。
赤い岩の空間はその素材の色彩から、オレンジ色や紫色に見える場所もあり、自然にでき上がったとは思えない完成された美しさで、何度もカメラのレリーズを切ってしまいました。僕たちより先に到着していた写真サークルのような団体が、襞や光のきれいなポイントでこぞってカメラを構えていて、狭い足場が並べられた三脚で通れないところも。
15分も歩けば見物が終ってしまう短い渓谷ですが、皆上の方に首を傾け、神秘的な壁を眺めながらゆっくり歩いています。時折地表で吹く風が砂を巻き込んで渓谷内に砂埃を降らせます。
1時間半くらい時間をかけて往復した後、地表に戻りました。
国立公園で僕が最も見てみたかった場所は、期待通りの見事な姿を見せてくれました。