翌日は歩いて野外博物館を見に行ってきました。
この一帯にある岩窟教会は、4世紀頃から初期キリスト教徒が住み始め、12〜13世紀頃に岩壁に多くのフレスコ画が描かれるようになったとのこと。日光が入らない場所に描かれているため、保存状態は驚くほど良い。
教会や住居が集中し、大学のような機能を果たしていたらしく、厨房として使われていた岩窟の天井が煤で覆われて真っ黒になっていたり、岩を削り出して作られた原始的なテーブルが残っていたりと、当時の生活の様子を想像しながら見学することが出来ます。
博物館そのものも素晴らしかったのですが、ここで出会ったトルコ人がとても親切。忘れられない思い出です。
フレスコ画は、赤一色で十字架や動植物を線画で描いたものから、極彩色で奥行きのあるものまで様々。いずれも狭い岩穴を、頭をぶつけないように注意しながら中に入ると、広い空間があり、壁や天井に所狭しと描かれています。可愛らしささえ感じる素朴なスタイルにホッとさせられます。
フレスコの画材として、また食料として鳩を多く飼育していたようで、岩に掘られた小さな小屋がたくさんあるのも面白い。その小屋も赤いフレスコで縁取られています。
カランルク・キリセ(暗闇の教会)という際立って保存状態の良い岩窟は、野外博物館の入場料とは別に5リラの入場料が必要です。少し高いなぁと思いつつも、入り口に集って食事の後片づけをしていた係員達に訊ねると、フレスコ画が素晴らしいという答え。支払って入ることにしました。キリストの生涯の様々なシーンを描いたフレスコ画は、本当に美しい。天井を埋め尽くす絵は、アヤソフィアなどで見たモザイク画を彷彿とさせます。
外に戻ると係員達は、後片づけを終えてチャイを飲みながら談笑中。その内の一人がアデムでした。
アデムは独学で覚えたとは思えないほど、日本語が上手なオジサン。たどたどしく言葉を選びながら話しますが、問題なく会話が成立します。終始ニコニコ顔で、チャイをご馳走してくれ、彼の休憩時間が終るまで座り込んで話に夢中になりました。アデムは野外博物館の外にある(でも野外博物館の一部)トカル・キリセという岩窟教会で案内の仕事をしています。カッパドキア地方全体の博物館学芸員として働いていて、数年前からこの野外博物館の勤務。半年おきに勤務地が変わりますが、見学に来る日本人を掴まえては話しかけ、日本語を上達させてきているようです。
アデムの他の係員たちも、いくつかの日本語の単語を知っていて、一緒に他愛の無い話で大盛り上がりです。
話し込んでいる途中、小学生の団体がやって来て、アジア人が珍しいのか一緒に記念撮影。大声で挨拶して帰ってゆく子供たちがかわいい。
アデムとはトカル・キリセでまた話をする約束をして、再び見学に戻りました。太陽が照りつける中、じりじりと肌が灼けるのを感じながら見学を終えると、真っ先に売店へ。他の観光客と同様に、ここで売っているアイスクリームが目当てです。
売店の目と鼻の先にあるトカル・キリセに到着すると、アデムが先程と同じニコニコ顔で待っていました。同じ仕事場の係員たちにトルコ語で僕たちを紹介してくれます。トルコ語は分からないけどたぶん、カランルク・キリセで会ったんだ、日本の名古屋から来て世界一周しているんだ、ゆんじょんは韓国人だけどえらく日本語が上手いんだなどと話しているらしい。アデムから借りた懐中電灯を持って、教会の中を見学しました。
野外博物館の他のフレスコ画と違って、ここの絵は鮮やかな青色が素晴らしい。これを見るだけでもギョレメに来た甲斐があったと感じます。
入り口に戻って、再びアデムとお話。いつの間に用意していたのか、観光案内所でも品切れで手に入らない日本語版のパンフレットや阪急交通社の出版しているトルコのガイドブック(なぜここにあるのか)、彼自身が勉強に使っているトルコ語と日本語の単語週のコピーなどをとり出し、全部僕たちにプレゼントすると言います。彼にとっては宝物に違いない大切なものをくれるなんて、その優しさに涙が出そう。
何度もありがとうを伝え、お互いの住所やメールアドレスを交換して、トカル・キリセを後に。アデムも他の係員達も、大騒ぎして見送ってくれました。