程なくして列車の時間が近づいたので、駅に戻りました。早めの夕食を摂り、翌日列車内で食べる朝食とミネラルウォーターなどを買い込んで、いざ出発。列車はガクンと大きく車体を震わせたと思うと、アナウンスなどもなく突然に走り出していきます。
列車は2等の寝台車。生まれて初めての寝台車です。車体に「東急」のマークがついているので、以前は東京から箱根辺りまでを走っていた列車のオサガリなのかも知れません。列車特有の強い刺激臭がするのを除けば、ネパールでのトレッキングを体験した僕たちにとっては十分すぎるほどの設備です。
いくつかの駅を過ぎた頃に、各車両に一人ずついる乗務員が、次々にベッドを組み立てていきます。シーツの取りつけ方なども堂に入ったもので、あっという間に上下2段のベッドの出来上がり。バンコクでは空席が多かった車内もアユタヤーを過ぎる頃には満員の乗客を乗せ、ずんずんとチェンマイへ向って走り続けます。通り過ぎる駅の蛍光灯が照らす、青いとも緑とも見える風景が旅情をか立てます。
ベッドは値段の高い下段をゆんじょんが、上段を僕が使います。上段の方が若干狭いうえ、ライトが真横にあるため夜中も暗くなりません。しかもエアコンの吹き出し口がすぐ隣にあって寒いのなんの。途中で寒さで目が覚め、バックパックから上着を取り出して重ね着するほどです。駅でエアコンがちゃんと効くかどうか確認していましたが、下段でも寒いくらいなので効かせすぎです。それを除けば快適そのもの。
乗客はそれぞれ思い思いの過ごし方で夜が更けるのを待ちます。何やら小声でおしゃべりを続ける白人の女性二人組。狭いシートに詰めて座ってビールを片手にトランプで盛り上がり、にわか酒場状態のロシア人の4人組。地元への帰省でしょうか、どこで手に入れたのか分からない焼き魚を箸でつつきつつ、止めどなく話続けるタイ人男性二人組。騒ぎ立てる子供たちを寝かしつけるのに一生懸命な夫婦とその家族。携帯電話が手放せないタイの若者。アユタヤーでトレッキングでもしたのか、すっかりくたびれ果ててすぐに寝てしまったオーストラリア人のカップル。皆それぞれに気ままに過ごしているのを眺めていられるのも寝台車の楽しみのひとつに違いありません。
途中で停車する駅が15箇所ほどあるのですが、当然真夜中に停車するところもあり時々起こされます。それでも列車の振動に身を任せてゆったり進む旅は、旅をしていると言う実感があります。いつもより長い時間休みをとるのでチェンマイに着く頃にはスッキリとした爽快な気分で目が覚めます。夜中は窓から何も見ることが出来ませんが、明け方からは通り過ぎてゆくタイの田舎の風景や時々止まる駅の周りに広がる町の風情は思い出に残る情景です。
約15時間(予定より1時間ほどの遅れ)の列車の旅は、大きなアクシデントも無く存分に楽しめました。