スペインでの旅を終えた僕たちは、フランスへの国境を越え、パリへ向って北上します。
途中、ボルドーとトゥールの二箇所で宿泊。ボルドーは高速道路でトラックが横転する事故があったとかで、微動だにしないほどの渋滞に巻き込まれ、ホテルに着いたのは夜。特に何もすることなく通り過ぎました。
ボルドーからトゥールまでは順調に車を走らせ、早めにホテルにチェックインして、近郊の城を二箇所見学してきました。
ビルバオのホテルを出発して、フランス国境へ向って高速道路A-8をとにかくひたすら走ります。山の中を走っていたかと思うと、遠くに海が見える瞬間もあり、長い直線が続いたかと思うと、九十九折りのカーブもあり、ドライバーを飽きさせない道路です。
もうそろそろ国境を越えるという頃、AutoGrillというサービスエリアに併設されたレストランで、スペイン最後の食事をすることにしました。
セルフサービス形式で好きな料理を選べるのですが、見た目だけではどんな味か想像がつかない。たっぷりのチーズに隠れているのは、肉か魚かとカタコトのスペイン語で店員さんに尋ねると、なんとその人は日本人なのでした。思わぬところで日本人に出会って驚いている僕たちに、カウンターに並んだ料理を全部教えてくれました。
オススメの料理を教えてもらって、食べてみるととても美味しい。サービスエリアのチェーン店で美味しい料理に出会えるとは期待していなかったので、大喜びです。
ボルドーまでは、高速道路を延々と走って、約3時間半。途中の休憩所で、コーヒーを飲んだ以外はアクセルを踏みっぱなしです。しかし、驚くほど何も無い。退屈です。車窓から見えるのは、道路を挟むようにしてどこまでもつづく森。遠く小さな村の教会の尖塔が見えたかと思うと、すぐに森。
次から次へと口に入れるガムとカーラジオから聞こえる音楽番組がなければ、すぐにでも居眠り運転してしまいそう。
ボルドーの市街を囲む環状線に乗ると、すぐに渋滞に巻き込まれてしまいました。カーナビの計算では15分もあればホテルに到着する距離にいるのはずなのに、じりじり進んで最寄りの出口から高速道路を下りたのが3時間後。出口のすぐ近くにあったスーパーで買い物をして、なるべく狭そうな迂回路を探してホテルの近くまで走ると、今度はここの出口を下りる車で渋滞。なんとかホテルに到着したものの、ここまでの移動でくたくたになってしまいました。
ホテルの受付によれば、朝の10時からずっとこんな状態だとか。
翌日は何事も無くトゥールに到着しました。
トゥールは日本人ツアー客も多く訪れる、ロワールの城巡りがハイライトの街。街の周辺には、1日では到底廻り切れないほどの古城が点在しています。11年間フランスに住んでいても、なぜかロワールの城には縁がなく、一度も来たことがありませんでした。ホテルのロビーにおいてあるパンフレットと睨めっこしながら、午後の限られた時間で見学出来そうな二箇所に絞って、遊びに行くことにしました。
最初に行ったのはアゼルリドー城。地元のブルジョワ出身でフランソワ1世の財務官ベルトロによって1518年に建設が始められますが、政治上の疑惑を掛けられ夫婦そろって逃亡。その後の所有者によって代わる代わる増改築を繰り返し、現在は国有の史跡となっています。
本来は内部にある当時のままを再現した室内や調度品を見学できるのですが、修復中のため城を取り巻く庭だけが見学可能。修復期間だけ入場料はタダでした。
パンフレットに書かれていた通り、敷地の中を流れる川や池の水面に反射する姿がとても美しい。うっすらとセピアがかった白い壁に渋い青色の屋根と尖塔。所々に除く赤い窓枠が、上品さを増しています。さほど広くはない庭園をぐるりとひと回りしながら、いろんな角度から城を眺めると、どんな角度から見ても美しい事に気がつきます。16世紀の建築家の持つ類いまれな色彩と造形のセンスに感心させられます。
続いて向ったのは、シュノンソー城。トゥールへのツアーでは必ずここの見学が含まれると言われるほど、観光客の多い城。フランスを代表する城と言っても間違いありません。僕たちが到着したのは閉館間際でしたが、それでもたくさんの見学者が城の周囲を歩いているのを見かけました。
駐車場を出るとポプラ並木に出迎えられます。敷地の中を城まで真っ直ぐにのびる並木は、城を造ったアンリ2世の権力の強さを、今にまで静かに訴えているかのようです。並木を抜けると城を中心に巨大な空間が待ち受けています。城の左右に、一周するだけで汗をかきそうな大きな庭園があり、その間に城が建てられる前の要塞の一部だった塔が佇んでいる。左手にあるディアンヌの庭から、川を跨ぐ橋の上に造られたギャラリーを眺めると、いわゆるフランスらしい古城の風景が楽しめます。城の敷地はとても大きく、庭園には陽を遮るものが何も無いので、暑い。
塔の脇を抜けて城の中に入ると、屋外とはうって変わってひんやり。過去の城主の名が付けられた寝室を見学出来ます。絢爛豪華な内装や調度品や壁に掛けられたティントレット、ヴェロネーゼ、ムリーリョなどの油彩画。あまりの豪華さに食傷気味になったら、当時の様子が再現された厨房へ。切り分ける前の肉をつるすフックやまな板、シェール川の水を汲み上げる井戸、食材を保管していた棚などが展示されていて、この厨房でどんな料理を作ったのだろうと想像するだけで面白い。
この城は、第一次大戦中に病院として機能していた歴史があり、城内で最大の見どころのギャラリーに、負傷兵が寝ているベッドが並べられた写真が展示されていたり、厨房にも大戦中に当時で最新の器具を設置されたのが残されていたりします。
そしてこの巨大な歴史的建造物が、建築当初から大戦中、現在に至るまで、ずーっと個人の所有物であるということにも驚かされます。現在はネスレ社の大株主、ムニエ家が所有しているとか。
トゥールの城を堪能した翌日は、パリまでの240kmを走ります。そしてとうとうレンタカーでの旅も終わりです。