ルクソールは遺跡がナイル川を隔てて西と東に点在しています。町の中心部でもある東岸は、時間さえあれば自転車でも見て回ることが出来ますが、西岸はツアーバスで観光するのが一般的です。
ツアーに参加すると何かと時間に追われ、ひとつひとつの遺跡をじっくりと見て回ることが出来ないため、僕たちはタクシーをチャーターすることにしました。しかもガイドがいない分割安です。
タクシーとは言っても、ホテルが手配してくれるのは、普通のセダンに運転手が付いてくれるもの。エジプトのタクシーはボロボロで壊れそうなプジョー504が主流なので、それよりは数倍快適です。
同じホテルに泊まっている香港人のアリとジュリーと供に、4人で車をシェアして西岸の遺跡巡りがスタートです。
最初に向ったのは、たくさんの王族の墳墓が発掘された、王家の谷。新王朝時代の多くのファラオはここに埋葬されていました。ひとり75ポンド(約1,534円)の入場料で、見られるのは3つの墓まで。現在公開されている10数個の墓を全部見ることは出来ません。ツタンカーメンの墓は、この他に特別に80ポンド(約1,636円)がかかります。
ガイドブックや各墳墓の前に掲示されている案内板を参考に選んで、トゥトモセ3世、シプタハ、ラメセス1世とツタンカーメンの墓を見学しました。
トゥトモセ3世の墓は、線画を多用した内部の装飾が漫画のようで楽しい雰囲気の墓です。神々に捧げ物をするファラオなどを壁一面にとてもシンプルに書き上げていて、何千年も経っているとは信じ難いほど現代的な印象。今日のグラフィティに通じるものさえあるように感じます。
墓は地面を掘って造られているので、換気が悪く人いきれがしています。少ない電気で室内を照らしているので、停電したら真っ暗。なんて思っていたら本当に停電しました。用意周到な人たちが持っていた懐中電灯のおかげで外に出ることは出来ましたが、途中までしか壁画を見ていなかったので心残りです。
シプタハの墓は、イシス女神とネフティス女神を従えたファラオを象った石棺が見どころですが、入り口付近の鮮やかな壁画もとても美しい。何千年たっても、当時を偲ばせる鮮やかな色彩のピグメントが残っているのが不思議でなりません。
ファラオの功績などを記録したヒエログリフ(象形文字)も、ひとつひとつが別の色を使って彩色してあり手が込んでいます。極彩色と言ってもいいようなファラオの墓の装飾と比べ、現代の墓は何と淋しいことか。
ラメセス3世の墓も玄室が極彩色の壁画で覆われています。等身大で描かれた神々やファラオの壁画は、ずっと眺めていても飽きることがなさそう。あまりにも見入っていたら、後が使えているから早くしろと係の人に怒られてしまいました。確かに墓の穴から外に出てみると長蛇の列です。
最後に見たのはツタンカーメンの墓。他の墓とは一味違って、案内板も大きく造られています。韓国人団体観光客を連れたガイドが、大声で案内板を前に説明をしていたのですが、結局墓の中を見ることなく立ち去って行きました。彼らのツアーに80ポンドの入場料は含まれていないようです。
実際入ってみるとあっけないほど狭く、壁画も全体が見られないように立ち入り制限がされているうえ、間近で見ることは出来ません。ミイラが展示されていた点が、他の墳墓と違う所。確かにこれで80ポンドは高いと感じます。
王家の谷を一通り見た後、向ったのはハトシェプスト女王の葬祭殿。エジプト最初の女王を祭った神殿は、これまでにアスワンなどで見た遺跡と違って、水平に大きく、女性らしいと言われればそんな気もしてくるような建築物です。
3段になった建物のあちこちに壁画や彫像が残っており、特にレリーフの上に彩色された壁画の美しさは一見に値します。他の壁画ではヒエログリフの背景に黄土色が多用されいたのに対して、淡い青緑色が上品な感じに見えました。こういった色使いを見ると、研究を重ねられた現代の色彩も人類が何千年も前からDNAに刻み込んで来たものを、繰り返し使っているに過ぎないのかも知れないなどと考えさせられます。
最後にハトシェプスト女王葬祭殿とは打って変わって男性的な、ラメセス3世の葬祭殿を見に行きました。巨大な塔門に超深堀りのレリーフ。壁画のモチーフも戦争をテーマにしたものが多く、勇ましい感じです。
ところが、遺跡巡りも後半になるともう疲れてしまっていて、あまり多くが頭に入ってきません。ただただ巨大な建物がレリーフで覆われていることだけが、印象に残っています。半日の観光でしたが、少し詰め込み過ぎだったかも知れません。
同行した香港人とは、その後も食事を共にしながらたくさん話をしました。彼らもヨルダンまで行く予定とのことなので、またどこかで再会することがあるかも知れません。