崩落の際には弾けるような音がするので、音を頼りに崩落の場所を探します。氷河のクレバスの間で音が反響するので、どこから発生した音か分かりにくく、気がついた時には崩れ落ちた氷河の部分はもう水の中。落ちる時に水面に大きな波を立て、一度は水中に隠れた氷の塊が、再度水面に浮かび上がってきます。これが流氷となって、アルゼンチン湖に流れ出てゆきます。
1時間経って、時間に追われるようにバスに戻り、桟橋からトレッキングのため湖の一部をボートで渡って反対岸へ。ペリトモレノ氷河の先端部が陸から水面に繋がっている辺りから、おのおのの靴にアイゼンを着けられ、氷の上を歩き始めます。
青い氷は、氷河自体の重みとその上に積る雪の重量によって圧縮された氷が、密度が高まって屈折率が高くなるから。遠くから見ると鮮やかなブルーですが、近くで見ると案外普通の透明な色のように見えます。
慣れないアイゼンでガニ股で歩きまわること約2時間。あちこちの奇麗なクレバスや、鉄砲水のように溶けた水が流れるポイントをてくてく歩いて、最後に氷河で出来た洞窟の様な場所へ。地面は土(これも氷河が運んできたモレーンと呼ばれる、岩の砕けた残骸)でも、天井は青い氷という不思議な空間を、びしょぬれになりながら入って眺めて、ツアーはおしまいです。
展望台からの眺めも、トレッキングも、時間が足りなく感じるほど充実したツアーでした。
次に行ったのは、パタゴニア最大のウプサラ氷河と、先端部で最も高さのあるスペガッツィーニ氷河がコースに含まれる、ボートツアーです。前回同様ホテルを巡回した後、ペリトモレノ氷河に近い桟橋までバスに揺られます。
僕たちが乗ったのは、2層のボートが隣り合わせになったような形状をした、300人ほど乗れるカタマラン。大きな客室2つに目一杯乗客を載せても、安定した推進力で進みます。最新式のカタマランだけに、船内にGPS情報やDVDの流れるテレビがあったり、ちょっとした飲み物や食べ物が買えるバーがあったりと、豪華な雰囲気。アドベンチャー気分ゼロですが、老年の観光客の多いためかも知れません。
最初にオネリ湖という、3つの氷河が合流する地点にある湖に向います。途中で巨大な流氷がアーチを描いているポイントで写真撮影できます。当然のことながら、流氷は次々に出来ては湖に消えてゆくので、このタイミングだけの観光ポイントなのでしょう。
オネリ湖の桟橋から上陸して、しばらくハイキングコースを歩くと、湖に到着。パイネのグレイ湖を彷彿とさせる、遠くの氷河と小さな流氷が少し残念。昼食を湖畔で摂るのですが、寒い、寒い。ガタガタ震えながら、前日買っておいたサンドイッチを食べて、早めにボートに戻りました。
その後、ウプサラ氷河へ。最大規模のウプサラ氷河は、先端部の幅が長いこともさることながら、壁の上に見える氷河の本体部分が巨大。遠く60キロ以上も連なる氷の塊が、徐々に前進してきているのです。この氷河の近くにある流氷も巨大で、僕たちのカタマランの3隻分くらいあります。ボートが近くを通った勢いのせいか、突然巨大流氷の一部(それでも巨大)が崩落。崩れた塊の大きさもしかり、水面で弾ける飛沫や波の大きさも、氷の割れる大音響も半端ではありません。
ペリトモレノ氷河で見ることの出来なかった大崩落ですが、ここで報われた感じがしました。
続いて向ったスペガッツィーニ氷河は、高さが最大とあって、本当に見上げるような高さ。ガイドブックに最も高い部分で135mに達することがあると書いてある通り、ビルのように見えます。溶けたクレバスでとげとげしい形に出来上がった先端部、後ろに続く本体部分も龍が首をかしげるような形。ちょっと恐怖を感じてもおかしくないような景色です。
一連の見どころを通過した後は、サラッと帰港。バスも港のすぐそばまで来ていて、サラッと市内まで。
この辺りの手際よさも、南米の経済先進国アルゼンチンならではと言うべきか。