南島へ向うフェリーに間に合うよう、ロトルアからニュージーランドの首都ウェリントンまで、南下します。454kmの距離。途中は山あり谷ありで、重たいキャンピングカーでは100km出せないので、2日に分けて移動する事にしました。
道中、大きな湖で有名なタウポ、映画ロードオブザリングのモルドールの撮影場所トンガリロを通過します。
ロトルアを出発して、最初に立ち寄ったのは、ワイオタプ・サーマルワンダーランド。ロトルアから車で30分程度の場所に、ロトルアを越える間欠泉の集った場所があるのです。
歩いて2時間くらいで一周出来る狭い公園内には、数十種類の異る温泉が湧き出ています。温泉の水の色は含まれる鉱物などによって異りますが、黒、オレンジ、黄、緑など、実にカラフルです。中でもアーティストパレットと呼ばれる、浅く広がったテラスの、所々にぶくぶくと種類の違う(つまり色が違う)温泉が湧き出ている場所は、高台から見下ろすと、自然が作ったとは思えない色彩。テラスの真ん中をボードウォークが突っ切っているので、すぐ近くからも見る事が出来ます。温泉なので、風向き次第で、あちこちから立ち上る湯気を一気に受ける事になる。ちょっと硫黄臭いけど、もわっと温かくて可笑しな感じがします。
エコー湖は青緑色をした水が蓄えられた湖。近くに行く事は出来ませんが、展望台から見えた湖は、絵の具を溶かしたような鮮やかな色で、周囲を覆う緑の森と非現実的な風景を作り出しています。同じ展望台から見える他の湖も、鮮やかな青色。ここいら一帯は、自然に対して人間が持っているイメージとは、随分と異る風景が展開しています。
ぐるっと廻って戻ってくるコースの途中に、シャンパン池があります。直径60mの池の全体から、もうもうと湯気が立ち上っており、水温が高い事が想像できます。池の縁から覗き込むと、ぷつぷつと小さな泡を噴くんだ水が、鮮やかな赤茶色に沈着した池の壁を伝って登ってくるのが見えます。これがシャンパン池の名の由来。
さらに進むと、インフェルノクレーター。地面にあいたクレバスのような裂け目から、ゴボゴボと不吉な音と湯気が上がっています。中を覗き込むと、原油か泥のような真っ黒な液体が、湧き上がってくる泡で波打っている。「地獄の火口」は、近年20メートルまで噴出した記録があるとのこと。そんなに真っ黒な液体が噴き出したら、それを覗き込んでいる僕たちに、命の保証はありません。先を急ぐ事にしました。
最後に見たのは、デビルズバス(悪魔の浴槽)。「浴槽」とは良く言ったもので、バスクリンでも入れたかのような、鮮やかな黄緑色。水にはヒ素がたくさん含まれているらしく、たとえ悪魔であっても、入ったら死んでしまうかも知れません。
折から降り出した雨から逃げるように、ビジターセンターに駆け込み、公園を出ました。駐車場でサンドイッチを作って昼食。なんだか硫黄の臭いを嗅ぎながら食べるのは変な気分です。
続いて向ったのは、タウポの郊外にあるフカフォールズ。タウポ近郊には見どころがたくさんあるのですが、ここフカフォールズは、ニュージーランド全土で最も訪問者数が多い場所。見に行かないわけには行きません。
タウポ湖から流れ出る水は、ワイカト川となってくねくねと北上し、他の水源と合流しながら海へと繋がって行きます。ワイカト川のタウポ湖に近い場所に、フカフォールズがあります。国道1号線を走っていると、おもむろにフカフォールズの看板があり、慌てて左折。そこから5分も走ればフカフォールズに到着します。
僕たちは、最初に展望台を見つけたので、高台にあるその場所から滝を眺めました。地面に空いた大きな谷に、恐ろしく激しいスピードで、飛沫を上げながら水が流れているのが見えます。緑色をしたその水流は、谷を形成する黒い岩とコントラストを描き、目を釘付けにする景色。
車を移動して、近くから見てみると、ものすごい迫力です。滝と言うと高い地点から水が落ちてくる風景を想像しますが、ここは複数の滝が連続して続いている地形のため、高低差は少ない。その代わり、水量がトンでも無く多く、水の力が狭い谷を作る岩を、削り抉って進んでいるのを間近で見る事ができます。こんな流れに飲み込まれたら、あっという間に死んでしまう。恐ろしいものを安全な場所から眺めるのは、古来から人を惹き付けるものです。
フカフォールズを離れると、雨が激しくなってきました。タウポ湖を眺めながら岸に沿って走る国道を進むと、徐々に上り坂が多くなって行きます。坂の頂上に差し掛るあたりで、緑が多かった風景は、茶色く枯れたような草木に取って代わり、右手に二つの雪山の頂が顔を覗かせます。その風景についついロードオブザリングのサントラを口ずさむ。確かに映画で見たモルドールの雰囲気があります。ここがトンガリロ国立公園。季節が違えばトレッキングや登山、スキーのため多くの観光客が訪れる場所です。何とも殺伐とした、しかし豪快な風景を眺めながら、豪雨の中どんどん車を走らせる僕たち。
夜遅くに付いたのは、Taihapeという町にあるキャンプサイト。こんなところにいったい誰が来るのか、何にもない場所です。電気がついてないオフィスの扉を開けると、怖い顔をしたオバチャンが出てきました。話してみると恐くないのですが、眉間に皺を寄せたまま、キーウィ訛りの英語でチェックインしてくれました。何の偶然か、他に泊まっている客も日本人。単身の旅行者のようです。
夜、真っ暗なキャンプサイトには、煌々と点いたライトがひとつだけ。ライトの周辺は明るいのですが、辺り一帯は真っ暗に沈んでいます。共同シャワーのある建物も、寂れていて、いつシリアルキラーがやってきても仕方がないような雰囲気。もちろん何事も起きませんが、誰もいないはずの建物で、誰かの足音でも聞こえたらどうしようかと、ドキドキしながらシャワーを使いました。