ジェロニモス修道院に行く前に、駐車場を探しまわって見つけたのが、ベレンカルチャーセンターの地下駐車場。
元々は、1992年にポルトガルがEUの首都機能を持つことを目的として建築されたものですが、現在は音楽やダンスを中心とした芸術の総合センターとして使われています。修道院の回廊とベレンの塔に入れなかった分、時間が空いていたのでここの美術館の展示を見てみる事にしました。
やってきたMuseu Colecção Berardoは、嬉しい事に2008年末まで全館無料。シュールレアリスムから現代アートまでを含んだ常設展も、特設展もタダで観る事が出来ます。アフリカでの鉱業で財を成した個人のコレクションが元となっているため、密度と言うか、作家毎の作品数や時代背景などを拠り所とした追求や、作品を追ってみる時の独特の重苦しさが足りない感じは否めません。それでも20世紀のアートを一度にまとめて俯瞰する場合は、深堀りしすぎない方が良いのかもしれません。
2階のフロアでは、銀行と美術館が主催する写真コンクールBES Photoの受賞作品の展示が行われていました。スペインで疲れるほど見た前衛絵画の難解さと比べると、とても分かり易く美しさや観る楽しさを追求した作品を、頭を空っぽにして鑑賞。広いスペースを贅沢に使った展示も、すごくリラックスできます。
下の階では50年代から60年代にかけて、フランスへ亡命したポルトガル人達の過酷な労働条件をルポした写真家Gérald Bloncourtの作品展、Por Uma Vida Melhorが行われていました。辛い生活を余儀なくされた100万人近くのポルトガル人の生活。写真家の作品に、当時の新聞記事や映像作家の作品、メモなどを絡めた展示を、小さな子どもから老人までが真剣に覗き込んでいました。
後から調べて知りましたが、これらの出来事はフィクションも含めて出版が禁止されていたらしく、あまり多くの情報が一般の人々の手に届く範囲には無かったようです。フランスに住んでいる時、アパルトマンの管理人と言えば、大体ポルトガル人かポーランド人と相場は決まっていて、なぜこういった移民たちが貧しい職業に就いているのかについて考えた事はありませんでした。今となっては懐かしい管理人のおばちゃんの笑顔の裏に、悲しい背景があった事に当惑させられました。
外に出てみると、入り口前の中庭の空間は肌色の石で作られた固い材質の建築でありながら、とても穏やかな印象で、ただ歩くだけでも開放感に浸れます。テージョ川と手前を走る車道を見下ろすカフェは、おしゃれな雰囲気で、アートを楽しみにきた地元の人々でにぎわっていました。
翌日は、旧市街をあちこち散歩しました。
最初に、サンジョルジェ城へ向かって車を進めますが、これ以上登ったらどこかで引き返せなくなるのではないかと心配になるくらい、狭くて急勾配の坂道。車一台がやっと通れるくらいの道路を、青空駐車の列がさらに狭くしています。あまりに条件が良くないので駐車場所を見つけるのを断念し、市内のフィゲラ広場の公共駐車場に車を停めました。
広場からサンジョルジェ城までは、市電が連れて行ってくれます。黄色い木造ボディの古い市電は、昔からリスボンの顔。今も急な坂道をものともせず、沢山の地元民や観光客を乗せて走ります。
レールの敷いてある道路のあちこちで人が乗せ、その度にカランカランと鐘を鳴らして走る姿は、異国情緒いっぱい。坂道が多いサンジョルジェ城の近くでは、市電を坂の下から見上げたり、坂の上から見下ろしたりできる場所も豊富です。観光客たちが思わずシャッターを切るシーンに何度も出会います。
肝心のサンジョルジェ城は、城壁からの見晴らしが最高ですが、それ以外は取り立てて面白いものはありません。ローマ時代に要塞として建設されたのをベースに、その後にポルトガルの地を占領した様々な教会や王が住んだという歴史的背景がありますが、残念ながら現在はその名残を感じるほど多くのものは残されていません。
城壁の一部に、反射望遠鏡を使った展望台があり、予約をすれば30分おきのショーを観る事が出来ます。表にある看板では何の事か分からないし、入り口も小さくて物置のようですが、なにやら面白そうだと感じ参加しました。城壁の一番高い場所に備え付けられたミラーに反射させて、リスボン市外の隅々までを、手が届きそうなほど近くに見る事が出来ます。当然「生」なので、遠くの橋の上を走っている自動車や、向こうの道ばたを歩いている人、テージョ川の風に吹かれて帆を広げているヨットも、全部動いて見えます。これまで見た事のあるどんな望遠鏡よりも、倍率が高いので驚きも何倍も大きい。
城壁に別れを告げ、市街に戻ります。バイシャ地区は商店やレストランが所狭しと建ち並ぶ、ショッピングエリア。金曜日とあって、大変な人出です。歩行者専用になっている大通りの真ん中にテーブルを並べたカフェにも、入れ替わり立ち替わりにたくさんの人が座っては、ショッピングで疲れた脚を休めています。僕たちもカフェのテーブルに陣取り、お茶と一緒にリスボン名物のエッグタルトを。カスタードクリームたっぷりの中身と香ばしく焦げた表面が美味しい。
お茶をしながら通り行く人を眺めていると、昼間は暑くて仕方なかった太陽が大分傾いてきたようです。ノスタルジーを絵に描いたような街、リスボンは夜に向かってまだまだ多くの人を集めて止まないようです。