セビーリャで旅行の一周年を迎えました。
郊外の大学に近い学生寮を、ホテルとして一般にも解放している場所で、キッチンもついているし、安くて便利です。
近くのスーパーで買ったチーズ(とても美味しい)や生ハム(イベリコ豚)、オリーブにちょっと高めのワイン(雄牛の看板のオズボーン)を揃えて、贅沢にふたりでお祝いしました。
さて、セビーリャでは闘牛を観るという、スペイン旅行で最大のイベントを控えていました。闘牛見ずしてスペインを旅したと言ってはいけません。バレンシアの火祭りを皮切りにスペイン各地を巡業する闘牛は、アンダルシアではここセビーリャで最大の盛り上がりを見せます。時期的には少し早すぎ、本格的な春祭の闘牛が開催されるまでには、あと2週間待たなければなりません。
闘牛初心者で小心者の僕たちは、まずノビジャータという生後4年以内の牛と、闘牛士になりたての人間との闘いを見て、心臓が耐えられたら本格的なものを見に行こうと計画。セビリア到着の翌日に、さっそく闘牛場までチケットを買いに行きました。
チケットを買うとひとことに言っても、座席の選び方がよく分かりません。ネットやガイドブックで調べると、日なたを表す「ソル」と日陰の「ソンブラ」、その中間の「ソルイソンブラ」に大きく分けられ、ほとんどの闘いは日光が目くらましにならない「ソンブラ」で行われる事から、ソンブラ→ソルイソンブラ→ソルの順で安くなり、さらにすり鉢状の観客席のアリーナ側(近い)から上(遠い)に向って安くなるとのこと。
ここまではナルホドなのですが、ネットでセビーリャのマエストランサ闘牛場の座席情報を見ると、数字と意味の分からぬ単語だらけ。値段も70ユーロから7ユーロまでと開きがあります。いろいろ調べても良く理解出来ませんでした。
闘牛場のチケット売り場に行くと、売り場のオヤジが、何時間も調べたのは何だったのというくらい分かりやすい図をサラッと見せてくれました。初心者がアリーナのそばに座っては申し訳ないと思い、ソンブラの真ん中辺りを指さして、値段を聞くと一人35ユーロ(約6,258円)。僕たちの旅行では大変な贅沢ですが、ゆんじょんの誕生日でもあったので奮発して即決定。
チケットと一緒にもらったポスターが嬉しくて、ホテルに戻ってデスクのコルクボード(学生寮なので)に貼り付けて気分を盛り上げていました。
闘牛の前日には、ノビジャータに登場する牛君たちを事前に観賞するため、闘牛場の一部が開放されています。狭い練習場のようなところに集められた6頭の牛は、寒さからか砂場の中央に肌寄せ合って集っています。お互いに相手を角で小突き合っているので、見る見る内に脇腹が切れて血が出ているものも。4歳でも既に充分巨体。ブルブルッと鼻を鳴らしては、白い息を吐き出し、前足で砂を掻いたり、頭を上下に振ったり、どの牛も獰猛な様子ですが、なぜか顔が可愛らしくて愛嬌があります。こんな可愛い牛たちが、明日には闘牛士に殺されてしまうのだと思うと、なんだか複雑な気持ちになります。
6頭の中でも腹に大きく「98」と書かれた牛が、元気が良く、他の牛たちを小突き回して気性が荒そう。僕たちの後ろでなにやら熱く語り合っているスペイン人のオヤジたちも、しきりに「ノベンティオーチョ(98)」と言っています。期待と応援を込めて番号を覚えておきました。
翌日、闘牛が始まる30分前に到着。闘牛場の裏手から回り込むと、裏門の周辺に大変な人だかり。何だろうと立ち止まって見ていると、到着したばかりの若手闘牛士が、皆の祝福を受けながら闘牛場へと入って行く瞬間に出合えました。
思わぬ幸運に喜びながら、他の観客にならって座席に敷く座布団をすばやく購入し、場内へと向います。
アリーナの黄色い砂と塀や衝立に塗られた赤いペンキが、スペインらしい色合い。直径50メートルほどのアリーナには、血のような真っ赤な液体で、二重の円を描く作業や、前日降った雨で出来た水たまりに、砂をかけて埋める作業をしている係の人の姿が見えます。
ソンブラ側から徐々に埋まり始めた席も、5分前にはソルの一部を除いてほぼ満席の状態。興奮さめやらぬ観客の騒ぐ声に負けず劣らず大きな声で、飲み物やパンフレットを売るおじいさん達。観客のほとんどはこれからの毎週のように開催される闘牛が人生の楽しみという感じのお年寄り達です。中にはキレイに着飾った上流階級っぽい人の姿もありました。