ジープに馬力があるとは言え、3トン近い車重のキャンピングカーはなかなか溝から出てきてくれません。下手をすると、ジープが道路の反対側の崖に突っ込んで行きそうです。何度目かでようやく後輪がスライドする感覚があり、気がつけば砂利道の上に戻っていました。
ロードサービスに任せることも出来たのに、雨と泥でびしょぬれになりながら、手伝ってくれた3人には本当に感謝の気持ちで一杯です。キャンピングカーを舗装路まで戻したところで、話を伺ったところ、旦那さんは日本で仕事をするニュージーランド人。何度も日本人には助けられているのでお互い様ですと、丁寧な日本語で話してくれました。ジープのお父さんは地元の警察の方でした。
キャンピングサイトに到着すると、オフィスはもう閉まっていました。ドアに貼られた張り紙を見ると、勝手に一泊して、朝に支払いをしてくださいと、随分と悠長な事が書かれています。
電源の位置や水道の蛇口がどこにあるか分からないので、1台だけ停まっているキャラバンの人に訊ねると、脚の具合が悪そうなオジイサンが、雨の中、わざわざキャラバンから出てきてキャンプ場の施設を一通り説明してくれ、さらに一番便利なサイトまで車を誘導してくれました。本当に親切な人ばかりで、感動のしっぱなしです。
どっぷり疲れきった僕たちは、手短に作った夕食を食べ、シャワーを浴びてすぐにベッドの中へ。
夜中、激しくなった雨が屋根を叩く音や、ビュービューと音を立てて通り抜ける突風に何度も目を覚めました。強い風が吹くと、キャンピングカーが横転するんじゃないかと心配になるほど、グラグラと揺れます。
あまり良く眠れずに、朝を迎えました。太陽が昇ると雨が小降りになり、風も止みました。曇った窓から外を見えていると、青い体と赤いくちばしの鳥がこちらに向ってきます。ニュージーランドにしかいない鳥、プケコです。芝生に空いた穴に餌になるものがあるらしく、仕切りと顔を突っ込んでいます。鮮やかな羽根の色と、戯けるような仕草が面白い。珍しい訪問者に、何度もカメラのシャッターを切りました。
僕たちはレインガ岬を目指してさらに北上します。車窓から見える風景は、牧場ばかり。道路の左右に伸びる広大な牧場に、遠くの方まで羊や牛が点々と散らばって、草を食んでいるのが見えます。
岬へ続く幹線道沿いで、ガソリンスタンドや飲食店が集った地点を越えると、突然道路が未舗装路になります。ところどころぬかるんでいて、スリップしそうで恐い。坂道がつづくと、昨日の脱輪を思いだします。本当に通って大丈夫な道なのか不安でしたが、正面から大型のキャンピングカーがやって来たのを見て安心しました。
前の車が残した轍の固そうなところを選んで、ゆっくりと進みます。岬の駐車場が見えた時には、本当にホッとしました。
すっかり晴れ上がった青空を背景に、小さな灯台が立っています。正面に広がる海は、視界の端から端まで水平線が続き、深い蒼い色が威圧感さえも感じさせます。水平線の上に出来た雲が、またこの後も雨が降ることを告げています。ほんの数時間だけ晴れた瞬間に、運良く到着出来たらしい。
岬の下に見える海は、オーストラリアとニュージーランドの間のタスマン海と太平洋がぶつかる場所。岬の先端からそう遠くない地点で、両方の海の潮流がぶつかりあって、波が立っているのが見えます。うねるような波と、白い波頭の動きを見ていると、今にも巨大な生き物が海中から飛び出てきそうな、不思議な胸騒ぎを感じる。マオリ族の人々にとって、この場所は死者の魂が旅立つ地として重要な意味を持っているそうです。