城壁の内側は、最大の見どころとなる王宮と、城塞として機能していたアルカサバ、花咲き乱れるヘネラリフェ庭園、教会や美術館などが集った複合施設になっています。王宮へのアクセスは、入場者数を制限するために入場時間が30分間隔できっかりと管理されています。
裁きの門をくぐって城壁内に入った二人は、まずアルカサバへと足を運びました。
アルカサバは、宮殿内でも最も古い時代に作られたとのことで、今にも崩れ落ちそうな遺跡。もちろんちゃんと修復整備されているので、崩れるような事はないのですが、アルハンブラ宮殿以外の場所にあったら、それほど観光の目玉として注目される事はなかったかも知れません。荒れ果てた内部を階段を上ったり、下ったりしながらあちこちの塔の上から市街を眺めるのが楽しみ方。
アルカサバの中の最も高い場所で、アンダルシアやEUの旗が翻るベラの塔に登ると、カテドラルやアルバイシン地区などのグラナダの市街地が一望出来ます。反対方向を眺めれば、まだ雪を被ったシエラネヴァダの山々を遠景に、王宮の建物が堂々とした容姿を誇らしげに見せています。
久しぶりに階段を上り下りしたので、やや疲れ気味。塔の上は風が吹いていても、太陽が容赦なく照りつけるので、とても暑い。数枚写真を撮ったら、引き返しました。
王宮への入場時間を待つ間、他の観光客に交じって、アイスクリームと本日2杯目のビール。ビールがやたらと美味しく感じます。
王宮に入れる時間がやってきました。期待を最大出力にして、入場を待つ列に並びますが、時間を過ぎてもまだ入れない。チェックポイントが二箇所あって、二箇所めで渋滞。熱射病になりそうな状態で待っているのはとてもつらく、入り口近くの日陰に入れた時にはとてもほっとしました。
イスラム芸術の最高傑作と言われるだけあって、モロッコやエジプトで見られる建築物に勝るとも劣らない美しさ。イスラム建築で特徴的な、同じモチーフを繰り返し使って気が遠くなるほどの細かな装飾を施した壁や、天井の鍾乳石飾りに思わず溜息が漏れます。
メスアールの間、黄金の間を通り抜けて、アラヤネスの中庭までやって来ると、内部の装飾とコントラストを作り上げる簡素な白い壁に太陽が反射し、とてつもなく眩しい。ゆっくり瞼を開くと、中央に水を湛えたプールで魚が泳いでいたのが、印象的です。
ライオンの庭に時刻を示す噴水があるのですが、あいにくの修復中で、水盤を支えるように並ぶ、ライオンの彫像達がすっかりいません。噴水はムハンマド4世がアルハンブラを建設する以前からそこに存在していたと言われ、周囲の芸術的な装飾に似つかわしくないほど、不細工。でもその不細工さが、妙に人懐こい表情で可愛いのです。
噴水の周囲はガラスと木のケースで囲まれていて、近づく事も出来ない。ガイドブックにも必ず紹介されるほど有名な庭なので、ものすごく残念です。王宮内でも最も装飾の細かな柱やアーチを見ていても、ライオンがいないとなんだか物足りない感じがしてきます。
その後いくつかの部屋を通り抜け、またその都度壁や天井の装飾、床のタイルなどに目を奪われ、写真をパチパチ撮り続けていると、王宮で最後の見どころのリンダラハの庭まで出てきてしまいました。同じくイスラム芸術の華やかだったモロッコを旅行した後だと、他の観光客ほどは感動が無かったのかも知れません。それでも細かな彫刻装飾には息を飲み、撮った写真も数知れず。
しばらく屋内を歩いていたため、外に出た途端に再び熱さに喘いでしまいます。
アルハンブラ宮殿の城外にある夏の離宮として、14世紀に建てられたヘネラリフェ庭園へ向って、歩き出します。
途中パラドールと呼ばれる、国が歴史的建造物を再生してホテルとして利用されている敷地がありました。今度グラナダに来る時には、こんなホテルに泊まって、朝も夜もアルハンブラ宮殿のシルエットを眺めて過ごせたらと、憧れてしまいます。
庭園への散歩道を行くと、庭園に近づくにつれて並木の形が整えられ人工的な美しさが増してゆきます。
バーコードのチェックポイントを過ぎると現れる、庭園内部は木々や花壇の間に水路や噴水が作られ、涼しげな場所です。何世紀も前から同じデザインのまま維持されているのだと思うと、たった今も歴史がつづいている事を感じさせられます。
石造りの建物によって作られる日陰と違い、木々による日陰は冷え過ぎず、木漏れ日の中、気持ちよい風が感じられる庭園内を散歩しました。
アルカサバで暑さに喘ぎながら修行僧のように階段を上り下りし、王宮で天井ばかり見上げて首が痛くなった観光客たちも、ここヘネラリフェ庭園の樹木や花に囲まれることで、人間らしさを取り戻したかのように見えます。子供たちがはしゃぎながら噴水の水に触れようとしたり、水路を流れる水に船に見立てた葉っぱを浮かべたりして遊び、それを眺める大人たちの眼差しがとても優しい。
オレンジの木から一生懸命に果実を採ろうといたずらをする少年たちは、やっとのことで採った果実を、階段の手すりに作られた水路に転がして競争していました。夢中になって遊ぶ少年たちにとっては、階段の急勾配もへっちゃら。
僕たちの表情からも、徐々に疲れが薄らぐのが見て取れたはずです。