翌日にはグラナダ市内をあちこち歩いて回りました。
天気も良いし、日曜日で車の往来が少ない事も合って、朝の空気はとても澄んでいるように感じます。
カテドラルは午前のミサの真っ最中。静かな教会内に物音を立てないように、信者の方たちの後ろからそーっと入りました。しかし、内部はミサの邪魔にならないよう、入り口近くしか見学出来ないようになっていて、警備員の目が厳しく、写真撮影も禁止されています。
ゴテゴテの装飾と暗い雰囲気が特徴的なスペインの教会において、とても清潔感のある真っ白な壁や柱に、ステンドグラスを通って射す外光が、巨大な空間に神秘的な陰影を描いています。祭壇やチャペルの金ぴかの装飾が白に映えて、とても美しい。
あまりウェルカミングな雰囲気ではないカテドラルをそそくさと出て、すぐ隣にある王家の礼拝堂へ。こちらは、スペイン独特の暗さが特徴的な場所。ミサは無いので誰でも入れます。スペインの歴史に重い存在感を残す、イザベル1世とフェルナンド2世の遺骸が残されていると言う礼拝堂内は、数人の観光客と信者の方が音もなくお祈りをしているだけ。
どこまで入って行っても構わないのか分からないまま、どんどん奥へと進むと、地元の信者と思しきオジサンたちが、奥の部屋で楽しそうに談笑しているのが見えました。厳かな礼拝堂とのギャップに、宗教が人々の生活に根付いていることを感じます。
その静かな礼拝堂を見学していると、どこからともなくギターの音色が聞こえてきました。外に出てみると、礼拝堂の壁沿いにある小路で、フラメンコギターを持った男女の二人組が演奏しています。周囲は音楽に聴き入る観光客で、道を塞ぐまでの人だかり。
ボヘミアン風な風貌の、そしてかなり年の離れた二人の演奏する曲は、フラメンコからルンビータスまで様々な曲調に広がってゆきますが、どれもフラメンコ風な掻き鳴らしが特徴。しばらく演奏を聴き続けて、休憩に入ったところで、彼らのCDを1枚買いました。
レンタカーで旅行をしていると、ゆく先々で地元の流行を教えてくれるラジオの他に、自分たちの気に入った音楽が聴きたくなる時があります。日本を出る時からiTunesに入れてきた音楽や、ダウンロードした曲などをCDに焼いて、よく走りながら口ずさんでいます。Jutta kaj La Fratoという名の二人組の曲は、僕たちのアンダルシアのドライブを盛り上げてくれるBGMになりました。
その後、イスラム時代の町並みが残り、世界遺産にも指定されているアルバイシン地区へと足を向けます。
まずは高台にあるサンニコラス広場へ向って、急な階段と坂を息を切らせながら登って行きます。狭く入り組んだ路地が交差する複雑な地形は、どんなに詳細な地図があっても、地元の人以外は迷わずに歩く事は不可能。あちこちで僕たちと同じように道に迷って地図と睨めっこをしている観光客の姿を見かけました。
このエリアには、急勾配で階段状になっているのにバスが通る道や、どうやって回収するのか分からないけどゴミが山積みになっているゴミ箱、豪邸があるかと思えば廃屋があるなど、なんともイスラム的に混沌としていて、モロッコの町のメディナを思い出します。無秩序に立ち並ぶ家々は、そのほとんどの壁が真っ白に塗られていて、壁の内側から迫り出した蔦の葉が、目に心地よい色合い。
丘の頂上の展望台に着くと、大勢の観光客や物売り、野良犬(?)に囲まれながら、シエラネヴァダ山脈の手前に、均整のとれた姿を見せるアルハンブラ宮殿を背景にして記念写真。警察のパトロールが来ると、物売り達が一斉に片付け始め、あっという間に姿が見えなくなるのが見ものです。
昼食を食べたい時間でしたが、アルバイシン地区のレストランは、そこそこ値段が高く、あまり美味しそうでもなかったので丘を下る事にしました。今度は上りと違う道を選んで歩いて行くと、テラスからアルハンブラ宮殿を臨む瀟洒なレストランがいくつもあり、迷路のような道は相変わらずですが、とても上品な雰囲気でどこを切り取っても絵になります。
昼食をサンドイッチで軽く済ませ、いったんホテルへ戻ったら、再び外出。今度はスペインの象徴のようにもなっている大きな雄牛の看板を見に出発です。
雄牛の看板は、酒類製造会社Osborneの宣伝のために、スペイン中の高速道路沿いに建設されたものですが、1988年の道路法改正に伴って撤去されることに。しかし、映画などで度々スペインを象徴するシンボルとして扱われ、文化的芸術的価値があるとして、撤去に反対する運動が各地で起こりました。最終的に議会でも保護を認める決議が下され、現在も89点の看板を見る事が出来ます。そのうちの22点がアンダルシア州にあり、高速道路を走っていると何度も見かけます。
シエラネヴァダ国立公園へ向う道沿いに、そのひとつがあると知って、高速道路に乗りました。
看板は、つづら折りの高速道を20分ほど走った観測所の側にありました。真っ黒な金属板が、夕日を受けて微かに銀色に輝く姿は、映画で観た雄牛を思い出します。一度通り過ぎて、Uターンして観測所に続く小道へ逸れると、目の前にドドーンと巨大な雄牛。麓の村を見下ろせる景色も素晴らしく、夕日が沈み行くのを、いつまでもじっと眺めていました。