開催時間の6時30分になりました。アリーナでは最後の砂かけ作業が急ピッチで進められています。
二手に分かれた楽隊のひとつから、トランペットが大きくファンファーレを鳴らすと、アリーナの塀の外側に大きな看板を両手で掲げた人が歩き始めました。僕たちの座っている位置からは看板の後ろしか見えません。
期待も最高潮の瞬間です!
すると放送が流れ、なにやら「雨」とか「アリーナ」とか「中止」とか言っています。会場全体から口笛が鳴り響き、座布団が宙を舞い、観客たちは立ち上がって出口へ。まだよく事情が飲み込めずにぼう然とする僕たちに、周囲の人たちは親切にも「No Toro」などと言って教えてくれます。どちらにしてもぼう然とする僕たち。
餌に群がる鳩のごとくチケット売り場に押し掛けた人たちに交じり、払い戻しを受けました。今日の闘牛が中止になったからと言って、翌日に延期されるわけではありません。セビーリャで闘牛を観たければ来週日曜日まで待たなければならず、先を急ぐ僕たちにとっては一週間も待ち続けるのは不可能な話。
背中で精いっぱいガッカリを表現しながら、泣く泣く闘牛場を後にした僕たちでした。
セビーリャでは、観光の見どころである大聖堂とサンタクルス街、マリアルイサ公園にも足を運びました。
大聖堂は、世界三大カテドラル(どういう基準か分かりませんが)のひとつに数えられる有名なもので、ヒラルダの塔という美しい鐘楼が目立ちます。これもイスラム時代のメスキータを基礎として作られた大聖堂。聖堂本体はゴテゴテのゴシック・ルネッサンス折衷様式でイスラムのイの字も見つける事が出来ませんが、オレンジの庭やヒラルダの塔の地上に近い部分には、イスラム様式の名残を見つける事が出来ます。
入り口で渡されるパンフレットに、急いで見学する場合は1時間、ゆっくり見学する場合は少なくとも2時間必要と書いてあります。どんなに聖堂が大きくても2時間はないでしょ、などと思っていた僕たちですが、パンフレットの順番通りに聖堂内の美術館から大変な数のチャペル、コロンブスの墓、中央の礼拝堂、聖具室、そしてヒラルダの塔をぐるりと廻ったら、しっかり2時間以上かかってしまいました。内部はどれもどこかで見たことのあるチャペルや聖具室の集大成といった様相ですが、サンアントニオ礼拝堂でとても上品な結婚式が行われていた事(有名人かも)、コロンブスの墓が石で作ったとは思えない意外な構造をしていた事、やたらたくさんムリーリョの絵が掛けられていた事が記憶に残ります。
大聖堂に対面して建つアルカーサルは、現在も王室行事に使われている王宮。イスラム時代の姿はそっくりそのままに、庭園を付け加えたような外観です。内部はいろんな様式が交じっており、その大部分はルネッサンス以降の絵画やタペストリー、地図、彫刻などで装飾されています。大使の間と言われる部屋がひときわ豪華な装飾で、コルドバのメスキータに似た馬蹄型のアーチがあり、グラナダのアルハンブラ宮殿をも彷彿とさせます。
庭園への出口のすぐそばに、3階の高さから、池に向って水がぴゅーっと吹き出ている噴水があり、まじめにやっているのかふざけているのか問い質したくなります。
臨時の展示としてトルコ王室の所蔵するカリグラフィーやその画材の展示が行われていて、細かな作品が興味深く、じっと見入ってしまいました。
サンタクルス街はかつてのユダヤ人居住区。狭く細い路地に白い壁が続きます。
ほぼ50m間隔でバルが存在し、そのどれもがこぢんまりとしていながら、とても繁盛しています。狭い店内では足りないので、狭い路地にまでテラスを広げて客を座らせていて、歩きながら食事をしている人たちのテーブルを見ていると、どんどんお腹が空いてくるのを感じます。
サンタクルス広場を見て、すこし時間をずらして入ったバルは、伝統的な料理と言うよりも斬新な創作料理を供する店。いくつか頼んだ料理はどれも美味しく、サングリアのグラスを片手に食が進みます。
マリアルイサ公園は、宮殿の一部を基礎に、博覧会会場として拡張された広場。エスパーニャ広場にはタイルでスペイン各地の歴史を描いたベンチがあり、自分たちの出身地を見つけては記念撮影している人たちでいっぱい。僕たちもこれまで訪れた町や、これから行く予定の町の名前を探しては、写真を撮ります。日光浴をしながら本を読んでいる人や、ギターで音楽を奏でている人、ただただベンチで昼寝をしている人など、賑わっています。
太陽が燦々と射すエスパーニャ広場に対し、手前にある公園は木々が生い茂り、水を溜めた池などもあって涼しい感じ。馬車や二人でヨコに並んでこぐ自転車で公園内を一周している人もいました。
アンダルシア観光の拠点となる街だけに、観光客も多く、見どころもぎっしりと集っています。美味しそうなレストランやバルも盛り沢山なので、また来ることが出来たらと思います。