待つ間、アリーナに二重の円を描く作業が行われているのを見守ることに。周囲の客たちは、作業をする人たちをからかったり、ウィスキー売りやパンフレット売りから買い物をしたり、手にしたチラシを見ながら闘牛が始まるのを待って時間つぶし。
観光客たちは(僕たちも含めて)、手にしたデジカメであちこちの風景を切り取るのに忙しい。
アリーナには雄牛の角の形にも見える半月型の影が落ち、黄色い土と赤い塀の色は、血が流され、最後のひと筆が描き足されるのを今か今かと待ち構えているよう。
いよいよ闘牛の始まりです。
楽隊のファンファーレとともに、この日闘うマタドール、ピカドール、バンデリリェーロ達がそれぞれ3組登場し、観客に挨拶をします。今日の闘牛はノビジャータ。まだまだ経験の浅い闘牛士たちが、4歳までの若い雄牛を相手に闘います。闘牛士たちが準備のために塀の外側に入って、ピンクのカポーテや赤のムレータを広げ始めると、アリーナの中央に戦う雄牛の紹介をするパネルを持った人が現れました。
闘牛士たちの準備運動が、何気に屈伸したり、アキレス腱を伸ばしたりと、ごくごく普通なのが可笑しい。どの闘牛士たちも窮屈そうなコスチュームを身に着け、逞しくも美しい。金糸やラメを多用した刺繍がキラキラと輝いています。
突然、会場が沸き上がったかと思うと、塀の扉が開き、カポーテを手にして立つマタドールめがけて黒い牛が飛び込んできました。今日の一本目の開始です。
ひらりと翻るカポーテに躱されたかと思うと、勢い余ってマタドールを超えてから反転し、さらに突進を続けます。
マタドールは牛の注意を引きつけて、カポーテの演技に入ってゆきます。ひらりひらりと翻るピンクのカポーテに、何度も突進を続ける牛。この間にマタドールは、牛の性格を見抜いて、ムレータの演技までの技を組み立ててゆくとか。
何回かカポーテが翻るうちに、会場から、最初はよく分かっていない観光客たちによる「オレー!」の声が合唱され、そのうちに地元の人も交じり、うまい演技が続くと「オレー!」や拍手の大合唱になります。最初のマタドールはなかなか上手なようです。
その後再びファンファーレが鳴り、二人のピカドールが登場。3箇所に分かれて立つバンデリリェーロ達は、順繰りに牛の注意を引き、準備を整えているピカドールから牛を遠ざけているようです。牛はとにかく元気がよく、見るからに重たい身体をぶつけそうになるまで突進するため、バンデリリェーロも牛が近づくと急いで塀の外へ逃げてゆき、その仕草が面白い。装甲車のような鎧を着せられた馬に乗ったピカドールは、長い槍を持ち、そーっとアリーナの外周に沿って位置に着きました。馬は牛を怖がらないようにするためなのか、目隠しをされています。
バンデリリェーロが注意を引くためのカポーテを仕舞うと、牛はピカドールの乗った馬に気がつき、急に方向を変えて馬に突進してきます。馬が牛の突進に耐えている隙に、ピカドールの槍がぶすりと牛の背中に突き刺さる。牛の力と、バランスを崩している馬とで、ピカドールは落馬しそうになりますがなんとか体制を整え、血を吹き上げてもまだ馬に角をぶつけ続ける牛に、再び槍をぶすり。
ファンファーレが鳴り、再びバンデリリェーロ達が牛の注意を引いている間に、ピカドールは退場してゆきました。牛はこの2回の槍の攻撃で、ずいぶんとスピードが落ち、体力がなくなっているように見えます。